トランプ政権に日本が対峙していくには
トランプ政権の常軌を逸した政策の発表と撤回の繰り返しにより、世界中が混乱に巻き込まれているのではないかと思います。
国家の政策運営は、基本理念と長期展望に基づき、国内外における国家の信用を傷つけないよう事前に十分検討し、その効果を見極めたうえで決定・実施するのが当然の前提です。
しかし、トランプ政権の政策運営は事前に十分な検討をせず、思い付きで実施し、副作用が大きいと撤回することを繰り返してしていく
ドナルド・トランプ大統領がそういう人物であることは元々知られており、専門家、有識者もある程度の混乱は覚悟していたと思われます。
しかし、ここまで無節操な行動に出ることはさすがに誰も予想できていなかったのではないかと思います。連続二期目に落選し、再度大統領を目指したことは、当然それなりにアメリカ大統領としての権力の魅力に取りつかれたわけで、当選し二期目となれば次はないので、何ら躊躇することなく独自政策を打ち出すであろうことは予測できたはずです。
トランプ政権の政策決定の特徴について、米国や欧州の多くの専門家、有識者は以下のように指摘しています。
第1に、具体的施策の検討段階で国家の政策運営に関する基本的な知見や豊富な経験を持つ専門家が加わっていないことです。
国家運営と中堅・中小の民間企業の経営は大きく異なります。トランプ大統領が経営していたのは中堅中小企業であり、特定の信頼できる企業の顧客と長期的にビジネスを継続した経験はありません。
このため、その場限りの交渉経験は豊富でブラフを交えた交渉は得意でも、長期的な信頼関係をベースとした安定的なビジネスのやり方には慣れていないはずです。
特に米国政府の場合、一つひとつの政策が国内のみならず世界に対して大きな影響を与えることになります。副作用が生じてから撤回しても元の状況には戻らず、米国および世界中の企業経営や金融市場等に深刻な悪影響を及ぼしてしまいます。トランプ大統領はこの点が理解できていないのではと思います。
第2に、閣僚級の人々は全員がトランプ大統領に対して忠実なイエスマンであることです。
このため、トランプ大統領の思い付きに基づく政策実行に対して、事前に一定の副作用が予測できていても勇気をもって自発的に諫言して修正しようとはしません。トランプ大統領は、政策判断においてインフレ、株式・債券市場、全米各地の支持層の評価を重視していると言われています。
その一方、民主主義体制の信頼度、世界秩序の安定、国家の威信や信頼といった目に見えない重要な価値を理解していないように見えます。
これらの重要な価値を築くまでには英知に支えられた政策実践を長期的に積み重ねる努力が必要です。しかし、いったん重要な価値が破壊されると、その回復には10年、20年という長い時間を要することになってしまいます。
米国には多くの優れた専門家や有識者がいるにもかかわらず、トランプ大統領の出現によってこれほど短期間に国家の土台が根底から揺るがされている事実を見ると、民主主義体制の脆弱性を痛感させられてしまいます。
民主主義は国民が支えるものであり、それを崩すのも国民です。確かにトランプ大統領の責任は重いが、彼を大統領に選んだ米国民の責任も重いと思います。
選挙結果を左右する平均的な米国民が、民主主義、世界秩序等米国が支えてきた価値を重んじる意識を低下させたことが現在の混乱を招いた要因の一つと考えられると思います。
日本は今の石破政権であっても、欧米諸国の有識者から日本の政治経済の安定が高く評価されています。これは政治家や経済人のみならず、平均的な日本国民の貢献による部分が大きい結果です。
しかし、日本の国家の基礎も米国と同じ民主主義体制に依拠しているため、脆弱性は日米共通の特徴であると思います。
その弱点を理解した上で、今後も日本が世界中から評価される国家の安定を保つには何が必要なのかを考える必要があります。これまでこのような国家存立の土台に関わる根本問題を現実的な政策と結び付けて考える必要を感じる機会はあまり多くはありませんでした。しかし、今やこの問題と真正面から向き合う必要を認識せざるを得なくなったと言えます。
日本は米国や中共のような超大国であるとは決して言えません。このため、グローバル化時代における日本の安定は日本だけの問題を考えても実現できません。
日本が世界秩序の安定に貢献する政策を実践し、それが世界から評価されることによって日本の安定が支えられることにつながります。
そうした観点から日本が長期的に目指す目標としては、以下の3つが考えられるのではないかと思います。
第1に、戦争のない世界の実現
第2に、グローバル経済全体の健全な繁栄
第3に、持続可能なグローバル経済社会の構築
これらのベースにある理念をシンプルに表現すれば、「万物の命を大切にし、それを育む地球を大切にする」ということになります。
第1の戦争のない世界の実現のためには、国家・民族・宗教等の違いを超えて、すべての人々の命を尊重することが必要です。
グローバル社会のすべての人々の間の相互理解、相互尊重、相互協力を重視する意識の共有を促進し、グローバル社会を1つのコミュニティと捉える共通認識の醸成がそのベースとなります。
第2のグローバル経済全体の健全な発展のためには、自由貿易体制のさらなる拡充による経済発展の促進と地域間・個人間の貧富の格差の縮小が必要です。
自由貿易体制の拡充のためにはWTO(世界貿易機関)ベースからCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)ベースへと徐々に移行することを促す必要があります。
所得分配の健全化のためには、税制や会計基準の改善により所得隠しの防止や自国における納税を促進するとともに、公正な所得再分配を実施することの重要性を世界の共通認識とすることを目指すべきです。
第3の持続可能なグローバル経済社会の構築のためには、世界共通の目標を共有し、その目標達成のため必要な対策、目標達成の時期の目標などは各国の自主性に委ねることになります。
環境、健康、食糧供給、治安、教育機会、基礎的な社会インフラなど、人々が安全かつ愉快に生活するための基礎的な条件達成のために各国、各企業等が自主的に設定した目標と達成状況の情報開示を促していくべきだと思います。
日本が上記の目標を掲げてその実現のために貢献しようとする場合、他国に対して強制することはできません。
しかし、世界中の多くの国の人々が共通の大目標に向かって自発的に動き出すような雰囲気を醸成することは可能です。そのためには、以下のような「場」を形成する役割を日本が担うことが考えられます。
その「場」において各国は自主的に設定した課題分野別目標を開示し、それとの対比で改善策の進捗状況についてわかりやすく分析・評価することになります。
各国の達成状況が目標に達していなくても罰則は設けるべきではありません。
この「場」(プラットフォーム)は国家がルールに基づいて運営する部分と「民(non-state actors)」がモラルに基づいて自主的に運営する部分の融合によるハイブリッド型組織とすることが望ましいと思います。
ルールに基づいて国家間で合意した仕組みだけに依存すると、イデオロギー対立等によって国家間の合意形成が難しくなるケースが多発することになってしまいます。
そうした事態による議論の停滞を回避するため、国家間の議論と並行して、「民」によるモラルに基づく討議の場をもつことが重要です。
高いモラルを共有した「民」の有識者、専門家は、国家間の対立を乗り越えて、各自の専門分野における国際協力を促すことができることになると思います。
世界秩序形成への貢献のため、上記の多国間協議の「場」の運営を日本が担うという事です。
その際には、イデオロギーや政治・経済・外交上の利害対立を超えて、世界中のすべての国を包含する形で運営する必要があります。そうした中立的なお世話係の役割を担うのは、最近の一時期を除いて、なるべく敵を作らない全方位外交を目指してきた日本が適しているはずです。
日本国民のモラルは比較的高く、日本に対する国際的な信頼も厚いため、日本がこうした「場」のお世話係の役割を担えば、大半の国々が安心して参加できるのではと思います。
特に現在は日本が最も安定していると評価されているため、その役割を担いやすいと思います。今後、日本が長期的に世界の中でこうした役割を担っていくには、日本が政治経済面で長期的に安定を保つ必要があります。国家の安定を支えるのは平均的な国民の政治的な見識や経済的な競争力です。それに加え、主要国が自国利益を優先した結果生じている現在の世界の混乱を見れば、モラルの高さも国家安定の重要な条件になります。
具体的には次の3点の意識を国民各層が広く共有することがモラルの中身です。
第1に、万物の命とそれを育む地球を大切にする心を持つこと。
第2に、他者のために自己の最善を尽くしきる心を重視すること。
自国利益のためだけではなく、グローバル社会で起きていることを自分自身が取り組むべき課題であると受け止める当事者意識をもち、そのために必要な日本の役割を考えることが重要です。
第3に、自分自身の心を誠実に内省し、自身の人格形成のため真摯に努力を継続する強い意志(至誠の心)をもつこと。
そうした人格形成には次のような教育の仕組みが必要です。
第1に、小中高等学校において子供たちの個性を引き出し、それを磨いて伸び伸びと育む必要があります。
特定の学科に偏った学校の評価基準を修正し、スポーツ、料理、ダンス、アニメ、音楽など子供たちが備えている個性豊かな才能を自由に発揮させる教育の仕組みを構築するべきです。
第2に、各分野における子供たちの能力に適合した教育の内容を提供するとともに、各自の学習意欲に応じて各人に適した学習速度で学べるようにするべきです。
特に優れた才能を発揮する子供向けには高度な内容を学ぶことができる専門コースを用意することになります。
また、中学生や高校生が得意分野においては大学の講義も受講できる制度などを設計することも一案です。
第3に、小中学校の教員数を倍増させ、1学級の人数を20人程度に減らし、各人の個性に応じた教育を実施すべきです。
不登校やひきこもりの子供たちへの対応、学級崩壊の防止等に対しても専門性の高い教員を配置して的確に対応できる体制を構築することになります。
以上のような教育の仕組みの導入により、子供たちの個性が引き出され、クラスの中で一人ひとりのユニークな才能を相互に評価するようになれば、相互尊重、相互信頼の関係性が育まれることになります。
これにより、子供たちが自分の得意分野で自信をつけ、周囲の人たちから応援され、それに対して感謝する繰り返しの中で得意分野を通じて周りの人たちに貢献する悦びを学べば、他者のために自己の最善を尽くす心が自然に育まれることになります。
日本の多くの国民がそうした人格を身に付け、日本が世界のために貢献する方向に向かうことになれば、おのずと総合的に高い民度が伴う世界有数の先進国として発展していくことは間違いないと思います。日本の世界最長の歴史を見れば、決してつけ刃的な政策ではなく、日本人が長年培ってきた世界に評価される日本精神をいかに磨き続けるか、こそが日本のあるべき姿だと思います。
