春節の中共人大移動で感染拡大リスク
日本ではあまり話題になっていませんが、世界では新しい感染症「エムポックス」の感染拡大が続いています。中共でも強毒型の感染が確認されました。
「サル痘」と呼ばれた感染症が突如欧州で報告されたのは2022年5月のことでした。同年にエムポックスに改名され、以来3年が経とうとしていますが、アフリカはもとより、アフリカ域外においても排除できずにいるのが現状です。
しかも、2024年には欧米などに広がった「クレード2」とは異なり、アフリカのコンゴ民主共和国だけに存在していた強毒型と見なされる「クレード1」までアフリカ域外で確認されました。
本年1月には、中共で初めてエムポックスのクレード1の感染者が、同時に5人も確認されました。後述しますが、中共はアジアでは最大のエムポックス感染まん延国なのです。旧正月である春節には人々の移動が活発になります。その中での感染発覚は不吉な事象でしかありません。
クレード1は2024年夏から秋にかけてアフリカで発生のピークを迎え、世界で散発する状況になっていますが、海外の最新の論文などを見ると、エムポックス強毒型のリスクが大都市に迫っています。
従来型と強毒型の双方を含むエムポックス感染者の世界の状況は、感染者がさほど報告されていない日本から見ると、「そんなに多いのか」と意外に感じるかもしれません。
WHO(世界保健機関)がデータを公開しており、これにより月ごとのエムポックス感染者数を確認できます。
この統計によると、2022年1月から2024年11月までの期間で、世界の国々で実施された検査により確認されたエムポックス感染者の合計は11万7663人です。
ただし、注意すべきなのは、感染の震源地であるコンゴ民主共和国(DRC)をはじめとするアフリカ諸国では検査体制が整っていないため、大部分が疑い例としてWHOの確定例に含まれていない点です。WHOのデータは、アフリカ域外での発生を確認するという点で確実性が高いものとして認められています。
その前提で見ていくと、直近のエムポックスの発生状況は、アフリカ外で感染爆発があった2022~23年と比べると異なることが分かります。
全体像を図にしたものは次の通りです。
エムポックスの確認状況。色の濃いところからクレード1、クレード2、クレード1とクレード2が両方確認された国を示す。ガボンはクレード不明。灰色は未確認の国。出典:米国疾病対策センター(CDC)

最新の2024年11月までの数字を見ていくと、直近の11月、アフリカ域外で報告が多い国の上位は次のようになっています。
国名 確認された感染例数
米国 2532
ブラジル 1740
オーストラリア 1266
スペイン 691
中共 628
カナダ 365
英国 271
ドイツ 240
フランス 200
タイ 180
コロンビア 132
オランダ 125
アルゼンチン 101
サウジアラビア 95
イタリア 90
ベトナム 88
フィリピン 47
なお、同期間に日本では20人が確認されています。
ほとんどは従来のクレード2です。もともとアフリカで発生していたウイルスはクレード2aとされ、アフリカ域外に広がったウイルスはクレード2bと分類されています。
こうした状況の中で脅威なのが、強毒型とされるクレード1がアフリカから流入し始めていることです。
クレード1はもともとコンゴ民主共和国で発生していた1aと、新たにアフリカ東部で発生した1bに分けられます。その1bが、2024年8月にスウェーデンとタイで確認され、9月にインド、10月にドイツ、英国、11月に米国で続々と確認されました。さらに、冒頭で紹介した通り、2025年1月に中共でも確認されました。
それぞれの人数は少ないのですが、2024年の状況を踏まえると、従来型のクレード2bが既に多く確認されている中にクレード1bが紛れ込んでいる可能性があり、楽観視は許されません。
エムポックスを根絶できていない中で、新型エムポックスが、既存の型に加わり流行を拡大させるリスクが高まっていることが問題です。
先述したように、アフリカでは多くが疑い例に分類されていますが、検査で確定した感染者数だけでも他地域を大きく上回っています。
2024年1~11月の感染者数は、コンゴ民主共和国が9247人、ブルンジが2650人、ウガンダが1027人と、これらすべてクレード1となっています。
コンゴ民主共和国では、クレード1aが流行していましたが、東部の北キヴ州、南キヴ州という地域で1bが発生し、これが東部に隣接するブルンジやウガンダに広がっています。
性交渉での感染拡大が起きており、鉱山労働者、セックスワーカー、同地域で続いている紛争による難民の間で感染が広がっている状況です。
最新の状況を、アフリカ疾病対策センター(アフリカCDC)が伝えていますが、2024年1~49週(11月30日~12月6日)までの期間で、アフリカで確認された疑い例は6万9211例、確定例は1万4794例、死亡者は1268人となっています。49週だけでそれぞれ3095例、553例、31人確認されています。15歳未満が34.2%で、女性が54.2%です。
感染の中心地であるコンゴ民主共和国の状況を見ると、いったん治まったかに見えましたが、終息からは遠い状況が続いていると分かります。
49週は、疑い例が2632例、確定例が156例、死亡が29例です。死亡率が1.1%で、従来強毒型は5~10%などといわれていましたが、直近ではそれほど高くないのは不幸中の幸いといえるかもしれません。男性が46.7%、15歳未満が49.3%、クレード1aと1bが流行しています。
一部、報道では、コンゴ民主共和国などではワクチン接種が開始され、日本からも明治ホールディングスグループのKMバイオロジクスがワクチン供給に向けてWHOの緊急使用リストに登録したと報じられています。
そうした動きから見れば、アフリカ諸国での感染拡大は抑制に向かっているという印象も広がっているかもしれませんが、まだそこまでは到達していないとみられています。
直近中共で確認された感染者は、コンゴ民主共和国に訪問歴のある人物だったと報告されています。アフリカの感染をコントロールできない限り、世界はリスクにさらされ続けることになります。
いったいなぜこれほどアフリカでの感染抑制が難航しているのかという事です。
世界的な科学誌のサイエンスでは、北キヴ州や南キヴ州に潜入し、状況を12月にレポートしています。その内容を見ると、コンゴ民主共和国で感染を抑制できない状況を理解するヒントになります。
同レポートでは、2023年9月に、南キヴ州のカミトゥガのバー経営者で初めてエムポックスが確認されたところから報告しています。このカミントゥガが、鉱山労働者やセックスワーカーが集まる町として知られています。エムポックスのクレード1bが広がった温床となったと考えられています。
サイエンスが伝えている感染者についての記述を見れば、なぜエムポックスが地域で広がったのかがよく分かります。
「性器に病変が集中する男性患者2人はどちらも鉱山労働者だったが、2人とも数カ月性交渉をしていないと主張した。『男性は恥を感じやすく、道徳観も働くのか、真実を隠す傾向がある』と医師のグレイス・カミフラ氏は言う。男性患者の8割ほどは感染経路について本当のことを話さない」
このレポートでは、外部の専門家が知ったかぶりをして、現場の意見を聞かずに教科書的な対応を取るという、首都キンシャサのエムポックス研究者、プラシデ・ンバラ氏の声も紹介しています。
現場で起きているのは、性行為による拡大であり、これが大きな問題になっていることが論文報告されています。それが家庭に持ち込まれ、母子感染を起こしたり、密集して暮らす同居人の間に接触感染したりしているという状況と見られています。刑務所や難民キャンプでも広がっていますが、それらは接触感染が起きているのだろうと推測されています。
サイエンスの指摘でもう一つ気になるのは、震源地となったカミトゥガでの流行は治まりつつありますが、周囲の北キヴ州や南キヴ州の他の集落などでは感染を抑えられていないことです。さらに、キンシャサへとクレード1bが広がっていることです。
震源地から、クレード1bが移動していることになります。キンシャサでは主に性感染症で広がっていると考えられています。キンシャサは首都であり、これはアフリカ域外へのハブにもなる地域です。エムポックスが大都市へと迫りつつあるのは脅威です。
こうした動きについて、サイエンスは過去のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染拡大に近いと警告を発しています。また、エムポックスが、他の動物に広がることにも注意を促しています。
実際、新型コロナウイルスは北米ではオジロジカに定着したと紹介しています。エムポックスはいまだに自然界の宿主が特定されていませんが、アフリカ域外も含めて野生動物に定着すれば根絶は困難になることは確実です。
頼みのワクチンも意外と苦戦しています。
サイエンスのレポートによると、コンゴ民主共和国の人口は1億1000万人に上りますが、ワクチンは合計26万5000回分が9月にようやく供給された状況です。成人に接種が進んでいますが、十分な供給がなく、本来2回接種が必要ですが1回しか接種できていません。18歳未満の子どもには一切接種されていません。
11月中旬に追加で12万2000回分が供給され、64万回分が出荷待ち状態です。日本政府から供給される300万回分が頼みの綱ですが、アフリカ疾病対策センターの説明によると、最近の状況では接種開始が2025年2月以降になる見込みのようです。
サイエンスのレポートで気になるのは、アフリカでは「接種部位に痕が残ることを嫌う」という傾向が考えられているという点です。それが接種を遅らせる要因になる可能性が指摘されています。
また、米イエール大学を中心とした研究グループによる2024年12月の論文報告によると、重症化リスクが高いコンゴ民主共和国に住む15歳以下の8割にワクチン接種をし、感染者を54%減らし、死亡者も71%減らすためには、2660万回分のワクチンが必要とする試算が示されています。
こうしたワクチン接種のハードルが、エムポックス対策の大きな課題となり得ることになります。
さらに、コンゴ民主共和国では、そもそも麻疹、コレラ、結核、マラリアなどがまん延しており、しかも、最近では謎の発熱を起こす病気「X」が感染者を増やしており警戒されている状況です。しかも、感染の震源地に近い北キヴ州や南キヴ州では紛争が続き、適切な医療対応も困難な状況にあります。栄養失調の問題も指摘されています。
これらの地域を始め、感染症が大都市へと広がりつつあり、エムポックスの感染拡大リスクが依然として高い状況にある事は間違いありません。
日本ではいまだにクレード1bは報告されていませんが、中共で感染者が確認された今、感染拡大が日本にも迫っていることは確実です。春節により中共人の大量来日もわかっています。政府、外務省、入国管理庁は何らかの対策を至急取るべきです。